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2011年3月11日金曜日

俯瞰的であること 恣意的であること  小説論

寝ている状態で出来ることはテレビや映画を観ることや、本を読むことくらいてある。

昨日も「熊哲」に行った妻をしり目に読み忘れていた本やもう一度読みたかった本を読み返した。

フラナリー・オコナー、ブローディガン、カーヴァー、ポール・オースター、リョサなどなど・・・・・

小説とは自分にとって心地よい空間を作ることと言った。しかし一方で分裂的なるもの、統合しきれないものを懐に入れる作業でもあるのだと感じる。

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フィッアーはバーモントの田舎町でポーランド系ユダヤ人の母と妹とつつましやかな生活をして暮らしていた。

その彼がこのプリンストンにやってきたのは今から6年前になる。大学を卒業し研究するためにこの街にやってきた。

彼がこの家を気に入ったのは中庭の真ん中にある年老いた楡の木があったことだ。彼の部屋からこの木が見える。ちょうどその頃は生命力あふれる緑の葉が風にそよいでいた。


中2階からこの家の主シャペロンの声が聞こえる。シャペロンは20年以上も前にご主人を亡くし、二人の息子も今はフロリダとニュユーアークに暮らしていて、クリスマスの時にたまに電話を掛けてくる程度だった。

シャペロンはこの空いた部屋を下宿にして食事付きの下宿を10年以上前から始めたのだ。

彼女の得意料理は「ニューオリンズ風の煮込み料理」だったが、下宿人たちはその献立を聞くや、何かと用事をつくって外食して帰ってきたが、フィッアーは例外で美味しそうに皆の分まで平らげたものだった。

髪を整え、薄らと頬紅をさした夫人が階下に降りてきて、フィッアーのボウタイを真っ直ぐに治して、肩の糸くずを丁寧に取り払った。

今日は彼にとって生まれて初めての晩餐会の日なのだ・

彼は遺伝子工学という夫人には理解できない分野の研究者であったが、彼の研究する世界では有名で、すでに国際的研究誌にも数回論文は掲載されており、将来を期待される若手の研究者として評判だった。

玄関のチャイムが鳴り、濃い紫のドレスに少し化粧が強すぎてその顔と不釣り合いな夫人の姪ドロシーがあらわれた。フィッアーは運転免許もなく晩餐会にどのようにして行こうかと迷っていたが、シャペロン夫人が姪の父親である製薬会社の社長であるゴードンに晩餐会の話をし、フィッアーに夢中になっているドロシーを連れて運転手付きの車を手配させた。

フィッアーは真新しいジャバブラックのレンジローバーに乗りこみ、窓を開けシャペロン夫人に笑顔で挨拶した。実は彼女はゴートンに「うちのSL600でいいかい?}との電話に、「だめよ黒のレンジにして頂戴、これからの若者がベンツじゃだめなの」と言っていたのだ。

シャペロン夫人は心持、うつむきながらほのかに笑って見せたが、少し寂しげな目をしていた。

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ご慧眼の皆さまにはすでに何の物語かおわかりですね・・・・・・・・・