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2012年7月26日木曜日

適正なコスト



テレビで飲食業界の革命児として格安でフレンチを提供するお店を経営している会社を取り上げていました。

銀座に一号店を出して、私のお膝元(笑・・元)の恵比寿にも出店したと言っていました。

要するに居抜きの内装で出店コストを抑えて、立ち食いにすることて回転率をあげて利益を出すと言う事です。

もともと飲食店で企画の優先する店は信じてないのですが、それ以上に妙な気持悪さを感じるのです。

この会社の社長はBOOK OFFを立ち上げた人のようです。

社長は大衆に今まで食べられなかったような美味しい食材を提供したいと言っていました。

私にとってはうどんの立ち食いだってNGなのですから、このフレンチの立ち食いでは胃袋に入って行きません。それは別としてもBOOK OFFもこの飲食業界も何かを減らして利益を出しているのです。

内装や設計にお金をかけたくないというのは分かります。しかし、それによって生計を立てている人もいるのです。空間は全く関係ないのでしょうか・・・・・

BOOK OFFだって高価に本を購入してくれる訳ではありませんし、これによって倒産に追い込まれた書店の数は計り知りません。

何かを提供するにはそれなりのコストが掛ります。それを無視してただ安く仕上げたいという気持ちは下流化した人の考え方ではないでしょうか。いや下流化した人を対象にしようと考えているのか定かではありませんが・・・・・

産業界でも人件費を抑えるためにただ海外移転した製造業の脆弱な事を述べました。自転車産業しかり、家電業界しかりです。

「コアコンビタンス」という言葉があります。唯一無二、他では真似できないような技術やノウハウのことです。もっとも、経営学的にはコアコンピタンスであればあるほど他から真似られ平準化するという理論がありますのでこれを継続していくということが如何に難しいか分かります。


先日、30年ぶりの大学の同窓会で友人はAという会社の専務取締役になっていました。この会社はある分野で抜きんでており、例えばF1の制動装置も供給しているし、新幹線などの鉄道用の制動装置も提供しています。この分野の第一人者なのです。

では何故、第一人者として継続できるのか、それはその会社が業界でトップになった事にあぐらをかかず、絶えず研究し、自己変革しようとする前向きな姿勢を持ち続けていることです。

話を元の飲食業界に戻します。三国さんというフレンチのシェフがいます。かれこれ20年近く前に日曜日に自由が丘のシェルガーデンで奥様と買物をしている姿を目撃しました。

彼は奥様の2.3歩後ろから、食材を手に取りながらじっくりと眺めてはもとの棚に戻していました。

そんな彼は常に新しい食材を研究しています。四ツ谷の彼の店はもとより、札幌の彼の店も素晴らしい料理を提供します。先日、私が焼尻島から仕入れた羊肉も彼の店で使っています。私は例えその金額が前述の飲食店の3.4倍でも構いません。それなりの空間と食材を使っているのですから仕方ないと思います。

閑話休題

以前フランスに仕事で毎年行っていた頃に一度、エルメスの本店に行ったことがあります。もちろん好学のためですよ。

その時は日本人の多さにも驚いたのですが、パリ在住の友達がこっそり教えてくれたことに、本当は商品があっても日本人には売らないとの事です。

別に差別している訳ではなく、その店の商品は「そうした人達」が買うべきものと考えているとのことでした。確かにお店にフランス人は多くありません。

パリでここの商品を持っているということは、「そうした人」を象徴する訳です。「そうした人」は必然的にそれなりのコストを払える人ということになるようです。

日本ではどうでしょう。こうしたブランド品は年収や生活とは切り離され所有される傾向にあります。

資質流れでこうした商品を買う人も多く、とても「それなりの人」が持っているとは言えません。

考えてみれば日本人はこうした当然のコストを負担する事を嫌う傾向にあるのです。

今巷に「フリーライド」という言葉が使われています。自己責任を持たずに単に他人を批判する精神はこうした傾向とも重なる気がします。

ノブリス・オブリージとは遠くかけ離れた島国の様子です。