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2013年4月12日金曜日

赤座海老 


赤座海老

30年近く前になるが岐阜に住んでいた事がある。私の住んでいた借り上げ社宅は毎日3時頃になると香ばしい匂いがたちのぼってきた。私の部屋のすぐ下がフランス料理店だったからで、落語の世界なら匂い賃をよこせと言われそうであるが気のいい店主は最後まで言わなかった。私達は娘が生まれたばかりで、おいそれとは外食は出来ず、あの頃は妻がレシピ本を見ながらせっせと夕食を作っていた。妻の名誉のため今でこそ料理を作らないと思われているようだが、あの頃は作っていたのだ。

そんな中、クリスマスだったと思うが娘を寝かせてから3人でこの料理店に出掛けた。メニューの中から手長海老のオーブン焼きを注文した。暫くして供されたそれは赤く染まった身の上にチーズがふりかけられ見事な姿だった。確かに長い手がついていた。

それから20年が経過し荘厳な内装の青山のイタリアレストランでメニューにあったザリガニのオーブン焼きを注文した。

供された料理に目をやると、子供の頃湖沼で良く捕まえたザリガニではなく、例の手長海老がのっている。ウェイターに確認すると「ザリガニ」ですとそっけない答えが返ってきた。それ以上ことさら追及することはせずそのまま食事を楽しんだ。

それからさらに10年、娘の嫁ぎ先である愛知県の三河地方に行った時だ。ご両親が私達のために蒲郡クラシックホテルで食事の予約をしていた。蒲郡クラシックホテルは小津安二郎の映画にも登場する歴史あるホテルである。その後、某鉄道グループが所有するが今はまた別会社が運営している。そのホテルに行く途中、娘の旦那が運転する車の中からふと蒲郡の市内を見渡すと、ところどころにのぼりが立っている。そこには「アカザエビあります」の文字が見えた。恥ずかしながらこの時まで赤座海老がどんな海老でどんな味がするのか知らなかった。

横浜に戻って赤座海老を調べてみた。何と蒲郡で多く水揚げされるとある。この海老は深海に住んでいて大型船で捕獲されるらしい。日本の固有種で駿河湾や三河湾の砂底に住んでいると書かれていた。写真を見ると想像していた海老と違う。でもどこかで見た事がある。そう、岐阜で食べた手長海老、青山で食べたザリガニのそれではないか。

よくよく調べてみると日本の手長海老は汽水域に住んでいて全くの別物のようである。この海老には鋏がある。つまりザリガニの仲間である。青山のウェイターはあながち間違っていた訳ではなかった。

今度、娘を送っていく時にでもこの産地である西浦温泉に逗留して、たらふくこの海老を食べてこよう。30年来の謎解きが分かったのだから・・・