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2014年1月17日金曜日

昭和という時代 「姫野カオルコ 昭和の犬」

昭和という時代はもっと寒かった。現代のようにTシャツにユニクロのフリースを着てさっと出掛けられる訳ではなかった。靴下を二重にして厚手のウールのオーバーを着込んでマフラーに耳あてまでさせられた。だから冬はひどく動きにくかった。
姫のカオルコの「昭和の犬」という小說が直木賞に選ばれた。小說に出てくる主人公は強い。強さをひけらかす事はさして難しいものではない。強さを忍ばせて普通の平穏さを装う強さだ。

私はこの本を読んでいて。小学生の時にクラスにいた女の子を思い出した。その子は特別学級にいたので時折一緒になる程度であったが、軽度の障害のためか会話は得意でなかった。周りからはその事でからかわれたり、馬鹿にされたりしていたが本人はそのようなこと、どこ吹く風と言わんばかりにいつもニコニコしていた。
その女の子は飼育室のうさぎの世話をするのが好きだった。餌のキャベツだけでなく、校庭の裏の畑を耕している小さな菜園の人からもらった大根の葉やあぜ道の繁縷を摘んできてはうさぎに食べさせていた。

あるとき心ない同級生がその子の机の上に袋に入ったあるものを置いた。袋の中身は死んだ兎だった。女の子がいつも世話をしていた白いうさぎだった。赤い目はそのまま見開かれ、兎の小さな手足は固く曲がったままだった。恐らく当時のこと、真冬には赤城おろしの北風で暖房もない飼育室は氷点下になっていたから凍死したのだろう。
女の子はその兎を抱きしめて声を出さずに泣き続けた。ただ、ただ兎に覆いかぶさるようにして下を向いて。兎を持ってきた男の子はバツが悪くなったのか、チェっと言ってその場から居なくなってしまった。

それから半年が経って、その女の子の姿を見かけなくなった。しばらくして、持病の心臓病の悪化でその女の子が死んだことが先生から告げられた。
あれから45年経つ。この小説を読んでその女の子のことを思い出した。