このブログを検索

2014年9月19日金曜日

Straight No Chaser


 男がこの言葉を知ったのは20歳の時だった。男は高円寺にあった小さなジャズバーに入り浸っていた。ある晩店内に流れていたその曲がTHELONIUS MONKStraight No Chaserだとマスターから教わった。そして辞書でChaserの意味を調べてみるとアメリカとイギリスでは使い方が違うということも分かった。アメリカでは強い酒を飲むときの水やコーヒー、牛乳などを指すと辞書に書かれていた。一方、イギリスではその反対、強いお酒を指すと出ていた。日本ではどうなのかマスターに聞いたがマスターは笑って答えなかった。

男はその店でバーボンの味を覚えた。大きな酒屋に行ってもまだバーボンの種類の多くない時代だったのにその店にはEvan Williamsというバーボンが置いてあった。焦がした樽香のするその味はワイルドターキーやジャックダニエルより力強く、ほんの少し酸味を感じるものだった。男がその酒のファンになるのに時間は掛からなかった。

THELONIUS MONKには伝説のような逸話が多いとマスターから教わった。マイルス・デイビスとセッションをしていたとき、THELONIUS MONKは急に演奏をやめてしまった。今度はそれに腹を立てたマイルスがTHELONIUS MONKの演奏中、急にトランペットを吹き始めたというのだ。それ以来、二人は犬猿の仲といわれ一緒に録音もセッションもしなかったというのだ。もっともこの話は後日談があって、話は単なる邪推で、最初からマイルスがピアノの演奏を止めるようにお願いをしていたと訂正されたが、ようするに人々にそう思わせるTHELONIUS MONKがいたことは間違いがない。

ジャズファンとしも有名な村上春樹氏が今月下旬に「セロニアス・モンクのいた風景」という本を上梓する。殆どの氏の本を持っているその男は早速予約した。
何故なら、男はTHELONIUS MONKが生きていた時代を知らなかったからだ。その知らない時代を村上春樹氏のペンによってどう理解させてくれるのか、そう、青豆が3号線から見える建物は西陽があたりベランダにゴムの木が置いてあると表現したように、言葉により景色や登場人物の心証まで送り届けたように、男の知らない時代を垣間見ることが出来れば嬉しいと密かに期待しているのだ。